「実井、怒ってるのか?」
「怒ってなんかいませんよ、ちょっとおしっこが顎にかかってくらいで」
「うぬ〜俺でさえまだやったことないのに・・・」
「なにアホなこと言ってるんですか?全くもう」

僕は少し赤くなり、オシメを替えると、赤ん坊を抱き上げた。
「ちょっとだっこしててください。顔洗ってきます」
「あ、ああ」

台所の洗面台で顔を洗っていると、赤ん坊が再び泣き出した。
ミルクか。
「波多野さん、ミルクは?」
「買って来た。そこだ」
「これは僕が頼んだ牛乳でしょう?赤ん坊は粉ミルクですよ」
「えっ、そうなの?」
呆れた。
「・・・またコンビニ行って来てください。すぐに」
「お前、おっぱいやれよ」
「男の乳首吸って喜んでるのは波多野さんくらいですよ」
「お、俺はそんなことやってない!!」
今度は波多野さんが赤面した。
「か。買ってくるわ・・・粉ミルク」
「頼みますよ。哺乳瓶もね」

全く。僕と波多野さんは夫婦でもなんでもないんだから、初心者以上に初心者だ。
おっぱいもやれないし・・・。
赤ん坊は背中をそらして泣き喚く。サルみたいな顔で。
はっきりいって、全然可愛くない。
もともと、赤ん坊なんてちっとも好きじゃない。
男で、赤ん坊が好きな奴って、いないとは思うけど。

「あ〜まだか〜はやく帰ってこ〜い・・・」
僕は赤ん坊を揺らしながら、波多野さんを恨んだ。
何で僕がこんな目に合わないといけないんだ。

波多野さんは警官だから、時々へんな事件を家に持ち込んでくるけど。
男同士のカップルなのに赤ん坊がいるなんて、凄く変な感じだ。
この調子で夜中中泣き喚くんじゃないだろうな・・・。

「ただいま!」
数分後、またマッハで、波多野さんが帰ってきた。
こういうところは、体育会系だ。

「これでいいか?人肌に温めた」
「少し熱いですね。ちょっと冷ましてから・・・」
波多野さんがつくったミルクを、僕はふって冷ました。

赤ん坊はミルクをやると、うそのように泣き止んで、すやすやと眠り始めた。


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