「で?キララを引き取りたいって?本気なのか」

真島はサングラスの奥の目を光らせながら尋ねた。
「ああ」
波多野さんは短く答える。
今日は仕事が休みで私服だから、波多野さんもただの24歳の青年に見える。
まだ若くて頼りない感じだ。
「そっちのお嬢ちゃんは弟、じゃあなさそうだな・・・ま、いいけどよ」
真島は煙草を取り出した。
唇の端で銜える。
「金は払えるんだろうな」
「ああ」
波多野さんは真島を睨みつける。
真島は、
「ばれたら免職じゃ済まないぞ、あんたも逮捕される」
「わかってる」

警官の波多野さんが赤ん坊の人身売買に関わる。逮捕、という言葉の重さに気が重くなった。
「言っておくが、ダメだと思えばいつでも取り上げる。それがルールだ。レンタルだからな」
「ああ」
「そっちの女の子みたいな坊やは承知しているのか?俺にはわぴ子以上に頼りなくみえるがな」
「大丈夫です」
僕は答えた。
一晩中考えて決めたことだ。
波多野さんと一緒に赤ん坊を育てる。
まるで普通の家族みたいに。
それが、波多野さんの願いなら、僕は。


「案外簡単でしたね」
「神永先輩が話を通しておいてくれたんだろ」
「神永先輩、かぁ」
昔、実井だったころの記憶は、養父と波多野さん意外はおぼろげだ。
神永先輩にしても甘利先輩にしても顔が分かる程度だ。
「お前、ほんとに良かったのかよ?」
「良くないですよ」
僕は答えた。
「ただでさえ波多野さんは薄給なのに、レンタル料はかかるし、養育費もいるし、さらに風呂つきの部屋に引っ越さないといけないし」
「そうだな」
「考えたんですけど」
「なんだ」
「僕も働こうと思います」

「え?でも大学は?」
「大学辞めて夜の仕事をしますよ。バーテンかなにか。交代でみのるを見れるでしょ」
「バーテンは俺が嫌だ」
「なんでです?差別ですか」
「職業柄あいつらには詳しいんだよ!大概アル中か、女たらしだ」
「僕はなりませんよ」
「ダメだ!大学は辞めるな」
「でも」
「俺に考えがある。いいから任せろ」

そういいながら波多野さんは、僕を強く抱き寄せた。





















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