「こっちへおいで」

最初は優しい声が、次第に険しくなる。

「こっちへ来い・・・」

険しい養父の顔が、だんだん甘利先輩に似てくる。
甘利、先輩・・・?
腰紐が解かれる。僕の小さな二本の白い足がむき出しになる。
甘利先輩が僕の太ももに唇を寄せる。
「あぁ・・・」
僕は喘いだ。
ヤメテ・・・。
「いい子だから」
幼子をあやすように、甘利先輩が言う。
「俺の言う通りにすれば、いいものをあげる・・・」
囁き声。
ヤメテ・・・。
ヤメテ・・・!
甘利先輩の手が、僕の胸をまさぐる・・・。

「やめろ!!甘利っ・・・」
がばっと飛び起きた。真夜中・・・。
「どうした」
冷静な波多野さんの声。
「なんでも・・・ないです・・・」
顔を覆うように、僕は手を当てた。
「夢を見ていたのか?・・・甘利の?」
先輩をつけずに呼び捨てにした。
波多野さんは立ち上がり、台所に行った。蛇口をひねって水を出す。

「ほら」
差し出された水を受け取り、少し飲んだ。カルキ臭い。
「落ち着いたか?」
しばらくして、波多野さんは尋ねた。
「嫌な夢を見た・・・」
「甘利に襲われた?」
少し声に棘がある。僕はそれには答えず、
「何時ですか」
「3時を回ったところ」
「すみません。波多野さんまで起こしちゃって・・・」
「一緒に寝てるんだから当たり前だろう」
「でも、明日早いのに」
「いいよ。別に寝不足はいつものことだ」
どうしたんだろう。
なんだか、波多野さんが上の空だ。

コップを流しにおいて、ひとつきりのシングルベッドに戻る。
波多野さんは両手を差し出した。
「来いよ」
「波多野さん・・・」
少し恥ずかしかったが、大人しく従った。
波多野さんは僕を抱きしめて、
「相談があるんだ」
囁いた。

「みのるを、引き取りたいと思ってる」
























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