「だから〜、悪気はないんだって!あの園長さん、5秒おきにラインしてくるから、返信するのが大変でさ〜」

「自分が聞き出したんじゃないですか」
「そりゃそうだけど〜、あんなにしつこいと思わなくて。保母って案外出会いないんだね〜」
こんな最低発言をしたのは、例の甘利先輩だ。
「そもそも、なんであそこに行ったりしたんですか」
波多野さんが尋ねると、
「最初は神永に連れられて行ったんだよ。神永が、例の真島と知り合いで。まあ、狭い業界だからな。神永はどういうわけか、不幸な子供が好きなんだよな。ほっとけないタイプ?っていうの?」
「真島さんの慈善事業に共感したんですね」
僕が言うと、甘利先輩はちょっと僕を見て、
「まあ、慈善というよりはビジネスだけど」
「ビジネス?」
波多野さんが身体を乗り出した。

「里親っての?あれ、子供レンタルなんだ。子供をレンタルするかわりにレンタル料を取るんだ。真島には莫大な資金源になってるはずだよ」
あっけらかんと言う。
「それって・・・違法なんじゃないですか?」
「恭子ちゃん」
甘利先輩は、微妙な顔をした。
「よく出来たシステムなんだ。真島は金を取る。子供はレンタル。一生かかってもレンタル。つまり子供は真島のものなんだ。アイドルなんかと一緒だな」
「一生かかってもレンタル・・・」
「つまり、真島の子供、ヤクザの子供ってことだろ?傷ひとつつけられない・・・そういうことなんだよ。新車と同じ」
「身の安全の保証のために・・・?」
「里親が気に入らなきゃいつでも取り上げられるだろ。レンタルなんだから。あいつ、頭いいよな〜ヤクザにしておくには惜しいぜ」
「でも、猫じゃあるまいし、そんなのって・・・」
「恭子ちゃん。実の親に殺される子供が、年間どれくらいいると思う?」
甘利先輩が笑いながら言った。
「そういうことなんだよ。親のない子供が生きていくには一筋縄ではいかない。里親の虐待なんて、嫌というほど聞く話だしね・・・。真島は人を信用しないそうだから、まあ、念には念をいれるんだろ。恭子ちゃんみたく恵まれた環境にいたら、わかんない話かもしれないけどさ・・・」

里親の虐待・・・。僕の心臓はどきんとした。
実井の頃の記憶がうっすらと、僕にはあったから。
「どうした?」
波多野さんが気づいて、僕の顔を覗き込んでくる。
空気読めないわりには、こういうときは鋭いな。
「なんでもないよ」
僕は視線を床に落とした。










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