「実井、起きろ!」
身体を激しく揺さぶられて、僕は目を覚ました。
「ん・・・何時・・・?まだ6時じゃないか・・・もう少し・・・」

波多野さんは夜勤明けで、警官の格好のままだ。
「いいから」
波多野さんに促されるままに、僕は服を着替え、外に出た。

生憎の雨だった。
波多野さんのパトカーに乗らされた。
「どこへ行くの?」
「・・・」
波多野さんは無言で、パトカーは走り出した。

<森のどんぐり・トトロ園>
そう書かれた看板の施設は、雨にも関わらず、子供で溢れていた。
「ここ・・・ヤクザの真島さんがやっている施設?」
「そうだ」
波多野さんはイライラしたように、門の外で煙草を銜えた。
「ここがどうかしたの?」
「あれ、見ろ」
波多野さんが指差した方向に、5歳くらいの女の子が赤ん坊を抱いて歩いている。
「あれがどうかした?赤ん坊・・・」
僕ははっとして、波多野さんを見た。
あの顔には見覚えがある・・・キララ、だ。

「だろ?」
険しい顔で、波多野さんは言って、煙草をくゆらせた。
わぴ子の奴、結局施設に子供を預けたのか・・・。
無理もない。わぴ子はまだ17歳だったから。

「これを見せに、わざわざ僕をここへ?」
「どう思う?」
波多野さんが真剣な顔で、僕を見た。
「どうって・・・そりゃ・・・可哀相だね・・・」
「だよな」
波多野さんは煙草を携帯用の灰皿に押し付けて、閉まった。

「神永先輩から聞いたんだ。わぴ子が赤ん坊を預けて、飛んだらしいって。メイドカフェに借金があったらしくて・・・詳しいことはわからないが・・・で・・・だって・・・」
雨音がひどくて、波多野さんの言葉は切れ切れにしか聞こえなかった。

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