甘利先輩が止めるのも聞かず、僕と波多野さんはメイドのあとをつけた。

メイドは、赤ん坊を抱えたまま、新宿のマクドナルドに入っていった。
「蘭丸君」
「わぴ子」
わぴ子?メイドの源氏名か。
わぴ子は、蘭丸という名前のいかにもホストな青年と待ち合わせていた。
派手な金髪のロングヘアをカチューシャでとめた、チャラ男だ。
開襟の派手なシャツに、ネックレス。白い革靴。
顔立ちも、派手で、まあ、見れなくはない。

「キララか。無事でよかったな」
「返してもらえないかと思って心配したよ〜」
わぴ子は、キララを蘭丸に手渡した。
蘭丸は、キララをベビーカーに押し込んだ。
「これから仕事だろ?」
「うん。だけど蘭丸君、本当に面倒見れるの?」
「俺、弟のオムツとか替えたことあるんだぜ☆大丈夫!」
蘭丸は日焼けした顔でくしゃっと笑った。

「頭悪そう」
「ホストだかんな」
「大丈夫でしょうか・・・」
「わからん」
波多野さんは厳しい顔で、蘭丸を見ていた。
「あいつ、どうするかな・・・」

メイドはしばらくすると、店を一人で出て行った。
仕事に向かったのだろう。
「さて、と。俺たちも行くか。キララ」
蘭丸はベビーカーを押しながら、店を出て行った。

「どこに行くんでしょうか」
「家に帰るんだろう」
「それはそうですね」
赤ん坊を連れてうろつけるような場所はこの辺りにはない。

だが、蘭丸はベビーカーを押しながら繁華街のほうへと向かっていった。
「おい、あいつ、みのるを連れてどこに行くんだ」
「キララですってば。勝手に人の名前使わないでください」
「しっ。留まった。あそこは・・・」
波多野さんの顔が険しくなった。
「あいつ・・・そうか、そういうつもりで・・・」
波多野さんは独り言を呟くと、僕を振り返り、

「あいつ、子供を売り飛ばす気だぜ。あそこは、ヤクザの隠れ家だ」

げっ、まさか。
僕は、怒りに満ちた波多野さんの顔を呆然と眺めた。








inserted by FC2 system