「志は立派だが、貴様はまだ卒業もしていない半人前だ。先に卒業することだな」

結城さんは冷たく言った。
卒業。だが卒業は半年先だ。それを待っていたら、賭けに負けてしまう。
「他の人より早く、卒業させてください」
「なに」
結城さんの表情は見えない。
だが、思案している様子だった。
徐に机の引き出しから一枚の写真を取り出すと、僕の前に投げて寄越した。

「真島という男だ。新宿でバーをしている。この男が落とせたら、卒業を考えよう」
真島。
色の浅黒い、割合に顔立ちの整った中年男だ。妙な色気がある。
「この男を落とせばいいんですね」
僕は写真を手に取った。
「簡単ではない。その男は元ジゴロで、その道のプロだからな」
結城さんはにやりとした。

ジゴロ崩れか。なるほど、難題だ。
だが、結城さんを落とすことに比べれば、なんでもない。


結城さんの手が僕のほうに伸びた。
気がつくと、僕は結城さんの体にすっぽりと抱き込まれていた。
僕の手から真島の写真がひらひらと落ちた。
「すまない」
結城さんが囁いた。
「貴様は俺のことが好きなのだろう?だから、試したのだ」
「ゆうきさ・・・」
「貴様の小説は読んだ。貴様は俺に抱かれたいのだろう?」
キス。
結城さんは僕を壁におしやり、貪るようなキスをした・・・。

☆☆☆☆☆

「どうした、ぼうっとして。もう出てっていいぞ」
結城さんの声にはっとして、僕は我に返った。
いけない。最近白昼夢を見るんだ。
結城さんが僕を抱きしめた感触が残っているのに、結城さんは机の向こうに座っていて、一部の乱れもない。
ああ、小説の続きを描かなきゃ。
これからの展開を思い描くと、思い切り胸が高鳴った。





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