「誰が結城さんを落とせるかで賭けようって、皆で言ってるんだ」

宗像が言った。
僕はジロリ、と宗像を睨んで、
「そんなの、僕が勝つに決まってるだろう?」
「そうとは限らない」
宗像は腕を組んで、
「秋元や中瀬もなかなか手ごわいからな」
「それで、なにを賭けるんだ?タバコか?」
「まだ決めてない。おいおい考えるよ」
「ふーん、乗った」

これで、結城さんを口説く口実ができる。
だが、うかうかはしていられない。宗像はともかく、秋元は手ごわそうだ。
歩くフェロモン男だからな。
僕はここへ来た当時、さんざん三好に似てるって言われて、比べられもした。
それを利用しない手はない。
僕は鏡の前に座り、髪型の研究を始めた。

「あ、三好・・・じゃなかった。葛西か?」
後ろから手をかけられて、僕が振り返ると、波多野は驚いた顔をした。
「髪型変えたのか?」
「そうです。いけませんか」
「いけなくはないが、まぎわらしいな」
「手を離してください」
一期生とはあまり話したくない。
「結城さんのとこへ行くのか?」
「そうですよ。では」
「あ、待て」
引き止める波多野を無視して、僕は通り過ぎた。
波多野も舌打ちをして、それ以上は追ってこなかった。

部屋をノックすると、結城さんの声がした。
「誰だ」
「葛西です」
「葛西?・・・入れ」
結城さんの耳障りのよい声・・・。一番好きかもしれない。
結城さんの顔は逆光でよく見えなかった。黒い影のように。
「なんだ」
僕は顔をはっきりとあげて、結城さんの顔を見つめた。
「お願いがあります」

「僕を、結城さんの右腕にしてください」




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