「愛してる」

結城さんの言葉に目を見張る。
それは僕がずっと待ち望んでいた言葉だった。

「驚いているな、葛西」
「結城さん、僕は・・・」
結城さんの手が僕の頬に触れる。
そっと包み込むように。

「これは・・・夢ですか?」
「夢ではない」
結城さんの指先が僕の頬を撫ぜた。
僕はその手を押さえるように、掴んだ。
幻ではない証拠に。
白手袋をしていないその手は冷たくて、氷のようだった。
僕はその手を温めるようにして、頬を摺り寄せた。

結城さんの親指が僕の唇をなぞる。
僕は目を閉じた。そうしてキスを待った。
唇に触れる柔らかな唇。やはり冷たい。
心臓が鳴り出した。呼吸が苦しくなり、僕は喘いだ。

結城さんは僕をそっとベッドに横たえた。
そうしてひとつひとつボタンを外すと、僕の鎖骨に唇をつけた。
脚と脚を合わせる。
結城さんの顔がだんだん下に下りていく。
ベルトを外す音がした。

「あぁ・・・」
僕はため息を漏らす。
結城さんになら、全てを捧げてもいい。
体も心も、髪の毛の先に至るまで・・・。
奪って欲しい。
結城さんの色に染まりたい。
僕の肌は上気して、薄くれないになった。

☆☆☆☆☆

「葛西。なにを書いているんだ?」
宗像の声。
僕は慌ててノートを隠す。
「なんでもないったら」
「怪しいな」
宗像はノートを取り上げて、高く持ち上げた。
「か、返せっ!」
「なになに?<結城さんの親指が僕の唇を・・・>」
「やめろ!!!」
僕は宗像を殴り飛ばし、ノートを奪還した。

そう、これは夢小説なんだ。
僕の、ひそかな願望・・・。
誰にも言えない。

僕はノートを抱きしめるようにして、部屋を出た。






















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